”皮から革へ”革が作られるまでの工程
財布や鞄、靴や家具など私たちの日常に溢れる革製品たち。
その歴史は深く、耐久性や手触り、品の良さから長年愛されてきました。
長く使うほどに変化していく風合いを楽しめるのも、革製品ならではの魅力ですね。
そんな革製品はご存知の通り動物の皮から作られています。
では、その動物の皮からどのような工程を経て、身近な革製品の姿へと変わるのでしょう?
動物の皮をそのまま製品へ加工…、なんてことはありません。
革製品へと姿を変える前に、様々な加工が施されているのです。
今回は、”皮から革”への道のり。
革が作られるまでの工程をご紹介します。
初めは塩漬けされた動物の皮
加工前の「皮」と、様々な加工を施された「革」。
どのような道をたどって、皮から革へと生まれ変わるのでしょう。
革製品が出来上がるまでの長い道のりは、動物の皮からスタートします。
製品に使われる革の原材料は動物の皮膚で、多くは食用の動物から副産物として採れたものが使用されています。
採れたばかりの皮は、脂肪や肉片、体毛が残っている状態。
まだまだ、よく知る”革”とは程遠い姿をしています。
この加工前の状態のものを「皮」と書きます。
皮は、脂肪や肉片が残ったままなのでナマモノ同様、腐りやすいのが特徴。
そのままだと加工場へ運ぶまでに腐敗してしまうため、乾燥させたり塩漬けにした状態で管理されます。
革へ加工するために、腐らないよう処理された皮を「原皮(げんぴ)」と呼びます。
まずは”皮”から”原皮”に。
そして、加工場に運ばれて”革”へ生まれ変わる工程へと進んでいきます。
革へ生まれ変わる前の下処理
腐らないよう処理された原皮が加工場へ運ばれると、まずはいくつかの下処理が施されます。
すぐに”革”に生まれ変わるわけではありません。
大まかに、以下のような下処理を行います。
①水漬け
②裏打ち
③石灰漬け
④脱灰・酵解
それぞれの処理内容を見ていきましょう。
①水漬け(みずづけ)
まずは腐らないように塩漬けや乾燥させた原皮を、加工しやすい状態に戻さなくてはいけません。
水漬けの工程では、皮にたっぷりと水を染みこませ柔らかくする処理が行われます。
それと同時に、皮に付着しているゴミや垢、血液などの汚れも綺麗に洗い流していきます。
水漬けをして、柔らかく綺麗な状態にすることで”革”への加工がスムーズに行えるようになります。
②裏打ち(うらうち)
裏打ちは、革へと加工する際に邪魔になる部分を除去する工程。
裏打機(フレッシングマシン)と呼ばれる機械を使い、皮に付着したままの脂肪や肉片を除去します。
この工程は、石灰漬けの後に行う場合もあります。
また、この段階である程度皮の厚みを調整することも。
加工場や皮の種類によって、手順が変わることがある工程です。
③脱毛・石灰漬け(だつもう・せっかいづけ)
汚れや肉片が除去された皮は、石灰乳に漬けられ柔軟性を出す加工が施されます。
皮を石灰に?なんて、不思議に思う工程ですが…。
石灰乳に含まれるアルカリによって、コラーゲン繊維のからみがほぐされ、革ならではの柔軟性が得られるんです。
それと同時に毛や脂肪が分解・除去されます。
柔軟性があり、肉片や体毛など余分なものがついていない皮。
よく知る”革”の姿へと近づいてきました。
④脱灰・酵解(だっかい・こうかい)
石灰漬けの後、皮に残った石灰を取り除く作業。
石灰漬けされた皮は、強アルカリ性になっているため脱灰によって中和し、この後の鞣し作業を行いやすくします。
また、ここでたんぱく質分解酵素によって不要なたんぱく質を分解・除去して革をなめらかにする処理も行われます。
この処理が酵解と呼ばれる工程です。
大まかな下処理は以上のような流れ。
この他にも、革に使う部分とそうでない部分に分割する作業や、再度石灰漬けにしたり、鞣剤の浸透を良くさせる作業など多くの下処理が施されます。
”革”に生まれ変わるまでに、たくさんの手が加えられているんですね。
丁寧な下処理が終わると、いよいよ鞣し作業が始まります。
皮から革へ「鞣し(なめし)」
革製品に関連して耳にすることもある「鞣し(なめし)」。
一体何のことだろう?と疑問に感じている人もいるかと思いますが、この鞣し作業が”動物の皮”から”革”を作り出す工程なんです。
鞣しとは、鞣剤を使って皮のコラーゲン繊維を固定、安定化させる工程。
これによって、革ならではの柔らかさ、耐久性や耐熱性が得られます。
鞣しをすることで、”動物の皮”から、”革製品の材料”として使用できる状態になるのです。
鞣しには工程や鞣剤の違いによりいくつかの種類があり、それによって仕上がりや使用用途が変化します。
代表的なものは、タンニン鞣しとクロム鞣し。
タンニン鞣しは、植物由来の鞣剤を使用する方法です。
耐熱性はクロム鞣しに劣るものの、摩擦に強く自然な風合いが出ることが特徴の加工です。
一方、クロム鞣しは鞣剤として薬品を使い、柔軟性・弾力性・耐熱性が良い仕上がりになるのが特徴。
比較的軽く染色もしやすいことから、現在主流になっている加工方法です。
その他、油鞣しやアルミニウム鞣しなど、皮の性質や仕上がりによって様々な鞣し方法が存在します。
動物の皮から多くの工程、長い時間を経て、ようやく革が作られました。
次に最後の仕上げをして、”革”の完成を迎えます。
鞣し後の仕上げ
鞣しが終わると、加工作業もいよいよ仕上げ段階。
革に残っている余分な水分を取り除く水絞り(みずしぼり)や革の厚さを整えるシェービングという作業を行います。
さらに、用途に応じて染色や再鞣し、艶出しなどの仕上げを施し…。
”革”が完成します。
”皮”から”革”へ。
私たちが使う革製品の材料は、たくさんの工程を経て作られているんです。
下処理、鞣し、仕上げの工程を経て、”皮”は”革”になる
今回は、皮から革が作られるまでの工程をご紹介しました。
私たちがよく知る”革”の状態になるまでには、たくさんの加工が施されているんですね。
”動物の皮”から長い道のりを経て、まずは”革”へ。
そして、多くの人に愛される革製品に姿を変えていきます。
身近にある革製品も、たくさんの手を加えられ丁寧に作られた革なのです。
記事に出てきた用語集
【皮と革】
体毛や肉片が残っている、加工前の状態を「皮」。
鞣しを行い、柔らかさや耐久性、耐熱性を得た状態を「革」と書きます。
読み方はどちらも「かわ」ですが、加工前後で漢字が変化します。
また、皮から革を作る過程で運搬・保管のため防腐処理した状態のものを「原皮(げんぴ)」と呼びます。
【水漬け(みずづけ)】
塩漬けや乾燥させて防腐処理した原皮に水分を与え、柔らかく、加工しやすい状態に戻す下処理。
血液や汚れを洗い流し綺麗な状態にする目的も備えています。
【裏打ち(うらうち)】
裏打機という機械で、脂肪や肉片など革を作る過程で邪魔になる部分を取り除く工程です。
【石灰漬け(せっかいづけ)】
アルカリ性の石灰乳に漬けることで、皮の繊維をほぐし柔軟性を与える工程。
同時に体毛や脂肪を分解・除去します。
【鞣し(なめし)】
鞣剤を使って、皮のコラーゲン繊維を固定・安定化させます。
革の特徴である柔軟性や耐久性、耐熱性を得るための工程で、この加工を経て皮から革が作られます。
工程や鞣剤の違いによって鞣し方法にはいくつか種類があり、仕上がりも変化します。
【シェービング】
鞣し後に行う仕上げ。
シェービングマシンという機械を使い、革を一定の厚さに整えます。